交通ルール啓発ブログ

 国際自動車(km)が超過勤務黙認でタクシー事業許可取消の憂き目に

1990年を挟んだ俗にいう「バブル」の時期と規制緩和で景気が良かった1年程前までの数年間は、取引先の商談や接待・深夜帰宅などの度にタクシーを頻繁に使った。特にバブル期は、商談に同席するしか役に立たない若造の分際ながら「タクシーはなかなか捉まらないし、せっかく会社の駐車場に多数台待機していて余っているから」との理由で、上司の許可を得ればタクシーではなく法人契約しているハイヤーに乗って取引先に向かい、商談を進めている間は近くで待機してもらってまたハイヤーで帰社するということができた時代であった。
昨今は社用でタクシーを使うことはほぼ皆無となり、プライベートで年に数回程度しか使わない小生でさえ景気悪化を感じ取ることができるのだから、「景気動向のカナリア」というべきタクシー運転手の人たちは余程過酷な勤務状況下で仕事をしているのだろう、と思う。
冒頭をこのような書き出しで始めたのは、下記のニュースを読んだからである。

大手タクシー会社「国際自動車」(東京都港区)が運転手に超過勤務を強いるなどの道路運送法上の違反があったとして、関東運輸局が一般乗用旅客事業許可を取り消す可能性があることが30日、分かった。事業許可が取り消されれば、同社は最低2年間、所有する約920台のタクシーやハイヤーを稼働させられなくなるという。
関東運輸局によると、2月に国際自動車に監査に入った際、業務日誌から乗務員の超過勤務が判明するなど、複数の道路運送法上の違反が明らかになったという。
道路運送法では、3年以内の違反点数が80点を超えると事業許可が取り消される。国際自動車はすでに47点の累積違反があり、関東運輸局は「今回の違反事実が確認されれば、80点を超えることは確実。事業許可が取り消される可能性が高い」としている。
関東運輸局では7月16日に、国際自動車側の反論などを尋ねる聴聞を開くという。聴聞の場で国際自動車側が違反を認めたり、事実関係を否定できる証拠を提出しなげれば数カ月程度で事業許可が取り消されるという。
国際自動車は「指摘を受けた点はすでに改善しているなど取り消されないように聴聞に備えている」としている。

- iza

国際自動車の行政処分は、近時では以下のとおりである。

  • 同社大森営業所・平成19年3月5日に監査を実施したところ、運転者の過労防止に関する措置が不適切であったこと、他1件の違反が判明したもの。(旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項 違反・事業者違反点数22点) - 平成19年8月21日・輸送施設の使用停止(35日間)
  • 同社赤羽営業所・平成19年3月9日に監査を実施したところ、運転者の過労防止に関する措置が不適切であったこと、他1件の違反が判明したもの。(旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項 違反・同上) - 平成19年8月21日・輸送施設の使用停止(105日間)
  • 同社浅草営業所・平成20年11月14日に監査を実施したところ、運転者の過労防止に関する措置が不適切であったこと、他2件の違反が判明したもの。(旅客自動車運送事業運輸規則第21条第1項 違反・事業者違反点数47点) - 平成21年5月12日・輸送施設の使用停止(315日間)

「超過勤務」といっても、乗務員(タクシードライバー)が決まりを守らなかったことによる会社の指導不足であったのか、それとも「決まりを無視してでも稼いでこい!」と指示して会社ぐるみで強いていたのかは分からないが、恒常的であることが伺える。そこで何が処分対象になったかをもう少し説明する。
タクシー運転手の超過勤務で問題となったとのことであるから、「拘束時間(乗務時間+休憩時間)」か「乗務距離」のどちらか、もしくはその両方が基準よりオーバーしていた、ということになる。
タクシー乗務員の「労働時間」であるが、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号)及び「事業用自動車の運転者の勤務時間及び乗務時間に係る基準」(平成13年国土交通省告示第1675号)による。

まず、朝昼に乗務する「日勤」と夜間に乗務する「夜勤」の勤務形態は以下のとおりに定められている。
  • 1か月の拘束時間は299時間(労使協定がある場合は322時間)を超えないこと。
  • 1日(始業時刻から起算して24時間)の拘束時間は13時間、延長する場合は16時間を超えないこと。
  • 勤務終了後、継続8時間以上の休息期間を与えること。
次に勤務日(出番)と休息日(明け番)を設けている「隔勤」の勤務形態については以下のとおりである。
  • 1か月の拘束時間は262時間(労使協定があるときは1年のうち6か月において270時間)を超えないこと。
  • 2暦日(出番+明け番)の拘束時間は21時間(夜間4時間以上の仮眠時間を与えることにより、1か月最高7回に限り24時間)を超えないこと。
  • 勤務終了後、継続20時間以上の休息期間を与えること。

一方の「乗務距離」であるが、「地域における道路及び交通の状況並びに輸送の状態に応じ、営業所に属する事業用自動車の運行の安全を阻害するおそれのないよう、地方運輸局長が定めるものとする」としており(旅客自動車運送事業運輸規則22条2項)、東京地区(23区・武蔵野・三鷹地区)では2004年12月に最高乗務距離は1日(始業時刻から起算して24時間)365キロメートルと決められていた。

さて、読者の中には東京のタクシー会社は「東京無線」の他は知らないという人もいるだろうから、「国際自動車」というタクシー会社についても簡単に触れておくことにする。


© sympathy
「国際自動車」は1920年に創業した老舗で、赤坂のTBSの向かいに大きな本社ビルを持つ。同様に戦前から営業していた「日本交通(日交)」・「大和(だいわ)自動車」・「帝都自動車」とともに都内タクシー業界の中核をなす大手4社のうちの1社であり、左写真のような「うぐいす色の車体色に赤色の帯」を付けた「四社専用カラー」と黒(正確には濃紺)単色の2種類の塗色の車両があり、全車が地方の個人タクシーやハイヤー・官公庁の公用車として使われている「トヨタクラウンセダン・Gパッケージ」を使用する「ハイグレード仕様」を揃える。都内では「国際自動車」よりも英語読み(kokusai motorcars)の略称「km(ケーエム)」の商号のほうで有名な会社である。

東京でのタクシーの善し悪しは乗り慣れれば大変判り易い。「トヨタクラウンコンフォート」や「日産セドリック(クラシックSVを除く)」は運転が荒くて接客態度の良くないドライバーか、主要道でさえろくに知らない運転手に当たる可能性が高く、塗色でいうとタクシー会社のオリジナルカラーのタクシーよりも黒塗りのタクシーの方がベテラン運転手に当たる確率が高い。更に、「東京無線」や「チェッカー無線」のような組合無線配車タクシー会社よりも、大手4社や準大手である「日の丸交通」のような単独配車タクシー会社のほうが共通チケットが使えて忘れ物や苦情処理の対応も素早く、しかも社員教育が行き届いていることから優秀で物腰の柔らかいドライバーが多いという印象がある。
にもかかわらず大手であるはずの「km」の場合は「当たり外れ」の差が大きい。というのも、採用しているタクシー車両は前掲のとおりすべて「ハイグレード仕様」で昨日始めたばかりの新人も数十年ベテランも全くのイコールのため、車両を見ただけでは「良質なドライバー」かどうかが見極められないという事情がある。言っておきたいが他の大手や準大手のタクシードライバーがおしなべて優秀という訳ではない。が、kmは他社に比べて程度差が開き過ぎるのである。
kmはここ数年新規営業所の開設と乗務員の大量募集、法人顧客の獲得や専用乗り口の確保等で事業拡大を図り、都内業界トップの日交に迫る勢いでシェアを伸ばしている戦略を立てていたという。現在のタクシー乗務管理システムは走行距離や勤務時間(何時間乗客を乗せて(実車)又は空車のまま走行し、何時間エンジンを止めた=休憩したか)が一目瞭然で数値化されることからも、全く把握できなかったとは考えにくい。会社側にも過度の期待をしていたことが想像できる。

国交省は今月中にもkmの言い分を聞く「聴聞」を開き、その内容も斟酌してkm本社営業所・支店(2009年5月現在、浅草営業所・大森営業所のタクシー計321台と赤坂支店・丸の内支店・有楽町支店・品川支店のハイヤー計589台、合計910台の車両を所有)の一般乗用旅客自動車運送事業にかかる営業許可取消しの成否を決めるという。従業員だけではなく利用者も、安全にタクシーを利用することを要望するならば、kmが利用客の安全を軽視してまで乗務員の超過勤務を「放置」してきたのかの認定事実に注目すべきである。

最後に・・・
かつて運転手から直接聞いた「よもやま話」であるが、kmとは別のタクシー会社では1日分の営収(乗務売上)が一定の金額以上の「ノルマ」を超えなければ、一旦営業所に戻ってきても「また客を取ってこい」と追い出される、という話を聞いたことがある
(実際に会社名とノルマの金額を聞いているが、真偽が不明なので今のところは伏せる)。
つまり、「乗務員の超過勤務が都内の一社だけとは限らないらしい」ということを付け加えておく。関係各位がご覧になっているなら是非調査をお勧めしたい。


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 コメント(2件)

#1: 名無し @ July 4, 2009 [REPLY]
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自分の知る限り労働違反の無いタクシー会社なんて聞いたことも無いなぁ。
次ぎの交代者に迷惑かけなないなら好きなだけやって来いっていうのが普通。
そればかりか免許の取得費用を盾にして退職の自由を制限したり、交通費の支給や残業代は名ばかりで、給与の内訳は全て自分で稼いだ歩合のみだったり、安全手当てなるものは事故を起こしてしまった日以外の日にも適用して問題の無い日の分を払わなかったり等々
しかしどれもこれも幾ら頑張っても稼げないからなんですよね。
そもそも最高乗務距離365Kmなんて何の根拠があるのでしょう?
今時、そのくらいの距離じゃたいした疲れは感じないし、その距離じゃまともな給与にはなりませんが?

#2: もこ(管理人)さんから名無しさんへの返信 @ July 8, 2009 [REPLY]
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>>1 名無し さん
コメントありがとうございます。
タクシー業界内部については良く分からないながら、拝見して考えてみますと

>>自分の知る限り労働違反の無いタクシー会社なんて聞いたことも無いなぁ。
>>次ぎの交代者に迷惑かけないなら好きなだけやって来いっていうのが普通。
>>そればかりか免許の取得費用を盾にして退職の自由を制限したり、
>>交通費の支給や残業代は名ばかりで、給与の内訳は全て自分で稼いだ歩合のみだったり
>>安全手当てなるものは事故を起こしてしまった日以外の日にも適用して
>>問題の無い日の分を払わなかったり等々
>>しかしどれもこれも幾ら頑張っても稼げないからなんですよね。

景気悪化が指摘される現在では、もろに景気に左右されるタクシー運転手さんは稼げないだろうな
と思いますが、人命を預かってお仕事をされている以上は稼ぐという概念より交通安全が下回るという
事があってはならないと考えます。
最近、タクシー運転手さんのみならずプロドライバーが事故を起こす事例が多いと聞きますが、自分はまだ
疲れていないから大丈夫という過信も事故の一因にあると思いますし、雇用するタクシー会社から
「他の運転手が時間を延長して頑張っているんだから、貴方も頑張りなさい」という理由付けに使われると、
却って自分たちの立場を苦しくすることになるのではないのでしょうか。
収入の減少等、労働条件の改善を会社や国交省に訴えるなら大いに結構だと思いますが、
収入減を乗車回転率の増加でリカバリーしようとして事故を誘発するような状況にならない配慮を、
利用者の一人として運転者の方にも期待したいですね。

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