交通ルール啓発ブログ

 免許制度の遺物?「軽免許」って何だ

道交法違反適用でミス 罰金20万円返却へ

運転免許で制限された排気量の上限を超える車を運転した女性が、道路交通法の「免許条件違反」で1万5000円の反則金納付で済むはずなのに、「無免許運転」の罪に問われ、罰金20万円を納めさせられたのは法令違反だったとして、最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)は16日、罰金の支払いを命じた略式命令を破棄、公訴を棄却する判決を言い渡した。検察側が警察の指摘でミスに気づき、検事総長が最高裁に「非常上告」していた。
判決によると、水戸市の女性(83)は、自動3輪車と軽自動車(排気量360cc以下)に限った免許を所持していたが、平成19年12月、同市内で上限を超える排気量の軽トラックを運転、摘発された。
これは、同年6月施行の改正道交法で免許条件違反の反則にあたり、反則金を納めれば起訴されないことになったのに、水戸区検は法改正に気づかず、女性を道交法違反(無免許運転)罪で水戸簡裁に略式起訴、同簡裁も気づかず罰金20万円の略式命令を出した。略式命令は確定していたが、破棄されたため、納められた罰金は女性に返される。
最高検は「事件処理にあたり、適用法令の確認を厳守し、同種の事案の再発防止に取り組む」として、全国の検察庁に注意喚起。水戸地裁の加藤新太郎所長は「ご迷惑をかけたことは申し訳なく、遺憾。このような事態が起きないように指導する」とコメントした。

2009年3月16日 産経新聞

多くの人たちは、何やら法律用語が並んでいて全く判らないのではないのでしょうか。55歳以下の免許所持者の方には関係ない話ですが、折角ですので詳しく説明しましょう。

スバル360

まず、女性が持っていたという「自動三輪車と軽自動車(排気量360cc以下)に限った免許」とは何か?を説明しましょう。
今から40年以上前、正確には1952年(昭和27年)から1968年(昭和43年)まで運転免許制度の中に「軽免許」というのが存在していました。
「軽免許」というのは、1954年(昭和29年)に全長3m以下・全幅1.3m以下・全高2m・排気量360cc以下の自動車の規格として定められた「軽自動車」を運転できる免許のことで、16歳から取得することができる唯一の四輪自動車免許でした。折りしも「経済高度成長期」の時代であり、通産省が「広く国民に安価な乗用車を購入できる機会を与えるとともに自動車産業を政府主導で育成しよう」と策定した「国民車育成要綱案」というのがありました。その内容とは、

  1. 乗車定員が4人分または2人+100kgの荷物が積める
  2. 車体重量が400kg程度
  3. 排気量が350~600cc程度
  4. 60km/h定地走行燃費がリッター当たり30km以上
  5. 最高速度が100km/h以上
  6. 月産2000台が可能
  7. 販売価格が15万円以内(1955年当時の大卒初任給・13000円で換算して、現在の価額でおよそ200万円)
  8. 大がかりな修理を必要とせずに、積算走行距離10万キロメートルを達成する耐久性

というものです。
この政策の内容が1955年5月18日付の日本経済新聞と日刊工業新聞に掲載されたことで世間に知られるようになると、その後同年7月5日に当時の浅原源七・日産社長が衆議院商工委員会で参考意見を求められたほか、同月15日に自動車工業会(自工会・現在の日本自動車工業会の前身)も通産省から「国民者構想」の実現について意見を求められ、逆に自工会企画委員会は当時の柿坪精吾・通産省重工業局自動車課長へ政策趣旨の説明を求めるなど、大きな論争を巻き起こします。一時は衆議院商工委員会で「国産自動車工業振興に関する決議案」が可決するまでに至りますが、自工会は9月8日に時の通産大臣・石橋湛山に対し「将来の課題として研究すべきものの、現状では不可能である」と具申したことにより、「国民車育成要綱案」は立ち消えになりました。
(この政策案は、後の1963年に通産省が策定した、海外の自動車メーカーとの国内市場競争に負けないよう、乗用車やスポーツカー等の車種ごとに生産する国産メーカーを指定して囲い込む「特定産業振興臨時措置法案」の下地になりましたが、いわば「寡占市場」を創るという側面もあり、戦前の「自動車製造事業法」と同様に政府が市場を統制する、との批判が起こって廃案になりました。)
この「国民車育成要綱案」の存在は自動車メーカーに機運を与えることとなり、この基準に併せた軽自動車を生産するなどの背景もあって、当時「金の卵」と持て囃された16~17歳前後の未成年労働者層が仕事に使うために多く取得したそうです。

しかし、自動車が普及すると同時に交通事故が多発したことを受けて、「軽自動車の性能の向上に対応して、交通安全の見地から運転免許の資格要件の強化が必要となった」との理由で、軽自動車を運転するのにも普通免許(を取得する程度の知識と技術)が必須となり、昭和40年の道交法改正(昭和40年法律第96号)により軽免許が廃止されます。
軽免許を廃止前に取った運転者(免許既得者)の法的権利を廃止後にも認めるかについて、警察庁交通局は「軽免許と普通免許は、それぞれ別内容の試験が行われるのだから、軽免許が廃止された以上は普通免許の中に軽免許で認められていた部分(360cc以下の四輪車を運転できる権利)が重複していても法的に同じ免許とは認めない。今後軽免許から普通免許へ移行する審査を受けない場合は免許自体を取り消す。しかし、自分の意思で普通免許交付に必要な知識と技術があることを都道府県公安委員会に証明しようとするならば期間を定めて普通免許に必要な知識と技術を持っているかの審査を行い、審査に合格した場合に限って普通免許を与えよう。」との見解を持っていました。そこで軽免許から普通免許へ「半ば強制的に」移行させるための手続きが設けられました(昭和42年法律126号)。この手続を「普通免許審査未済解除」といい、審査に合格していない人の免許の裏面に「審査未済」のハンコを押していました。
つまり、前掲の女性はこの審査に合格していなかった人だったのです。

しかし、「免許制度」の定義とは「後から取り消す正当な理由がない限り、主管する官公庁から恒久的な許認可を受けること」でもあり、「廃止された免許の権利は別の免許を取らない限りは取り消されるべきだ」との警察庁の見解は法解釈からすると矛盾します。そして、実際に警察庁の解釈は正しくないと証明される出来事が起こります。
2005年(平成17年)、三重県勢和村在住の65歳男性が「普通免許360cc軽自動車限定」で660ccの軽自動車を運転していたとして、松阪区検が同年2月に「無免許運転」で略式起訴し松坂簡裁は罰金20万円の略式命令を出しました。前掲の女性の事例とまったく同じです。しかし、検事総長から非常上告が最高裁に出されて、同年12月に最高裁第一小法廷が略式命令を破棄し公訴棄却の判決を言い渡しました。
この判決の内容をもう少し解説しましょう。免許に定められた車体の大きさ・乗車人員や積載量を超える車両を運転した場合は、道交法上2つの罰条が当てはまります。一つは「無免許運転」、もう一つは「免許条件違反」です。「無免許運転」とは、道交法の規定により固有の運転免許が必要であるのにも拘らず免許を受けていなかったり、運転免許の効力が停止されているのに運転してしまうことをいい(道交法64条)、「免許条件違反」とは、道交法に直接規定していないものの道路における危険の防止・交通の安全を図るために、都道府県公安委員会が運転技能等に応じて運転することができる自動車等の種類を限定したのにも拘らず、それに背くことをいいます(道交法91条)。つまり前掲の事例で「無免許運転」と認知するには、運転者が公安委員会から交付した正式の免許を受けていないか、摘発当時に免許の効力が停止していたことを証明しなければなりませんが、運転者は公安委員会から正規の方法で運転免許を受けていますし、免許の効力が停止された事実もありません。他に、道交法の条文には「普通免許軽車限定」で運転できない自動車は何か、を直接規定してもいません。よって、「無免許運転」は成立しない訳です。
これとは別に、道路交通法施行規則によれば、「長さが三・〇〇メートル以下、幅が一・三〇メートル以下、高さが二・〇〇メートル以下の普通自動車(内燃機関を原動機とする自動車にあつては、総排気量が〇・三六〇リツトル以下のものに限る。)」が運転できる運転免許を「軽車(三六〇)」との略語を表記する旨を定めており(同施行規則19条・別表第二) 、最高裁は普通免許で認められる権利の一部を認めている有効な免許であると判断した訳です。

軽免許普通免許軽自動車(排気量360cc以下)限定」(画像は小生作成の見本であり、住所等は架空のものです。) 警察庁は最高裁の決定を踏まえて、2004年(平成16年)の道路交通法改正に伴う2007年(平成19年)の「運転免許大改正」の時期に、普通免許に移行させることを前提に設けられた「普通免許審査未済解除制度」を廃止し、免許証の記載もそれまで裏面への「審査(普1)未済」又は「審査(軽車)未済」から、表面の「免許の条件」欄に「普通車は軽車(360)に限る」と表示されることになりました。

少々難しい表現になってしまいましたが、お判り頂けたでしょうか。
現在生産されている四輪自動車の中で「普通免許軽自動車限定」で乗れるのは、ミニカー(排気量50cc以下のガソリン四輪自動車と定格出力0.6kw以下の電気四輪自動車)しかありませんから、「普通免許軽自動車限定」をお持ちの年配の方はご注意頂きたいと思います。


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